水と人が多様に出会えるトイレ

大阪・関西万博 トイレ6

2025.8.1

空から降った雨が地表を流れ、地中に浸み込み、地球上の木々や草花を育てる。また、地表で蒸発した水はやがて空へ帰って再び雨となる。そんな水の循環のなかで、人々はさまざまな恩恵を受けながら暮らしている。そうした水の営みが感じられる屋根の下に、多様な人に配慮した、安全性の高いトイレが広がる。

※大阪・関西万博(EXPO 2025)において、会場内の休憩所・ギャラリー・トイレなど計20施設を、公募型プロポーザルにて若手建築家が設計。
本記事では、トイレだけでなく建築全体の紹介や、設計に携わった建築家の未来の建築に対する思いをご紹介します。

「静けさの森」を眺められる河原のように

会場中央にある「静けさの森」に向き合うように建ち、森に向かって傾斜した屋根をもつこのトイレは、「水のパビリオン」として考えられている。屋根に降った雨は、敷かれた石に吸収され、その過程で発生する気化熱冷却によって建物を冷やし、吸収しきれない雨水は「静けさの森」に向かうように流れ、水庭へと至る。水庭の水は、機械室床下の貯留池に流れ、再生水として処理されてトイレの排水に使われるほか、屋根頂部からの散水にも利用される。また、屋上は大きなルーフテラスとなっていて、登って休んだり、高いところから「静けさの森」を見渡したりすることもできる。

       

32個のオールジェンダートイレが並ぶ大空間

このトイレの特徴的な要素は、オールジェンダートイレの多さと一方通行となる動線である。オールジェンダートイレの割合について主催者からの指定はなかったが、ほかにも多くの男女別トイレが会場内にあるなかで、「選択肢のひとつ」としてオールジェンダーをメインとしたトイレを提案した。建物の側面に沿って入口へアクセスする動線上に、バリアフリートイレ、女性専用トイレ、視覚障害者優先トイレを配置し、行列の影響を受けずに、すぐに利用できるように計画されている。
建物入口では、内部の個室ブースはすべてオールジェンダートイレであることを丁寧に説明し、意図せずオールジェンダートイレに入ることのないように配慮している。建物内部に入ると、背の高い大空間の中央に、出口方向へと至る長い洗面台が置かれ、それを挟んでオールジェンダーの個室ブースが並ぶ。
入口から個室、そして出口に至るまでの死角をなくすことで、安全性にも配慮している。個室ブースの奥に配置された小便器スペースでは、壁面に沿って小便器が20基並び、用を足し終えると、同様に一方通行の動線で入口とは反対方向に進んで出口へと至る。

オールジェンダーにとどまらない、トイレの新しいかたちを示す

公衆トイレの設計は初めてだったと語る設計者は、同時に「水のパビリオン」として施設を考えることで、トイレの可能性が広がる部分があったという。高いところから一方向へ水を流すために三角形断面になっているが、これが背の高い空間を生むことや室内の重力換気につながり、内部に入った際の開放感と快適性を高めている。また、オールジェンダートイレは、性的マイノリティの人たちだけを対象にしたものと思われがちだが、たとえば高齢の母親を介助する息子や、女児に連れ添う父親のような、さまざまな人たちの受け皿にもなりうることを示している。
ライター:市川幹朗
※映像・画像は開催前に特別な許可を得て撮影をしています。工事期間中の撮影につき、一部完成建物と異なる箇所がありますが、予めご了承ください。

・パブリックトイレレポート
本現場のインタビュー記事が掲載されています。詳しくはこちら→
・事例サイト
建築概要・図面・器具 情報を掲載しています。 詳しくはこちら→

施主 公益社団法人2025年日本国際博覧会協会
設計 隈 翔平+エルサ・エスコベド/KUMA&ELSA

レポートに関するご意見・ご感想がございましたら、下記アンケートへご自由にご記入ください。

この記事は役に立ちましたか?

※ひとつだけ選択してください。

内容についてのご感想、また今後取り上げてほしいテーマ、ジャンルがありましたら、ご記入ください。

あなたの業種は何ですか?

※ひとつだけ選択してください

RECOMMENDED

[an error occurred while processing this directive]